「長男に会社を継がせる。次男と長女には、預貯金を分ければ文句はないだろう」
多くの創業社長はそう考えますが、いざ相続が発生すると、その「文句」が会社を揺るがす大騒動に発展します。
原因は、会社の成長とともに膨れ上がった「自社株の評価額」です。
後継者に株式を集中させようとすると、他の兄弟の「遺留分(最低限の遺産取り分)」を侵害してしまい、最悪の場合、後継者が会社資産を売却して賠償金を支払うハメになります。
今回は、親族内承継における最大のリスク「遺留分」の対策と、骨肉の争いを避けて株式を一本化するテクニックについて解説します。
なぜ「自社株」が争族の火種になるのか
中小企業のオーナー経営者において、個人の財産の大半を占めるのは「自社株」です。
しかし、自社株は上場株と違って、簡単には現金化できません。
- 後継者(長男):数十億円の価値がある自社株をもらうが、現金が入るわけではない。
- 非後継者(次男):数百万円の現預金しかもらえない。
この状況で、次男が「兄貴ばかりズルい! 株の価値の半分を現金でよこせ!」と権利(遺留分)を主張し始めると、経営は立ち行かなくなります。
株式の分散は「経営の死」を意味する
「じゃあ、兄弟仲良く株式を3分の1ずつ持たせよう」
これは絶対にやってはいけない最悪の手です。
経営権を安定させるためには、後継者が最低でも議決権の「3分の2(67%)」以上、理想は「100%」を持つ必要があります。
もし株式が分散してしまうと、重要な決議(定款変更や役員解任など)ができなくなり、将来、兄弟の仲が悪くなった瞬間に会社が機能不全に陥ります。
解決策①:除外合意と固定合意(経営承継円滑化法)
この「遺留分問題」を解決するために、国は特例を用意しています。「民法の特例(経営承継円滑化法)」を活用することで、以下の合意が可能になります。
除外合意
後継者が贈与された自社株を、「遺留分の算定基礎から除外する」という合意です。
これにより、自社株の価値がいくら上がっても、他の兄弟はそれに対する遺留分を請求できなくなります。
固定合意
自社株の評価額を「合意した時点の価額に固定する」方法です。
後継者の努力で将来株価が上がっても、その上昇分は遺留分請求の対象外となります。
ただし、これらを使うには「推定相続人全員(兄弟全員)の合意」が必要です。親が元気なうちに話し合いをまとめなければなりません。
解決策②:生命保険と代償分割
法的な手続きだけでなく、物理的な「金銭」での解決も準備すべきです。
会社(または後継者)を受取人とする生命保険に加入し、死亡退職金などを原資として、後継者以外の兄弟に「代償金(ハンコ代)」を支払う方法です。
「会社は兄貴に任せる代わりに、まとまった現金が入るならいいか」と納得させるだけのキャッシュを用意しておくことが、円満な承継の鍵です。
その遺言書、本当に大丈夫ですか?
「遺言書に『全株式を長男に相続させる』と書いてあるから大丈夫」と思っていても、遺留分減殺請求(侵害額請求)は遺言書よりも強い権利です。
事業承継における遺言書作成や、民法の特例活用は、非常に高度な専門知識を要します。
詳しくは『事業承継税制のデメリット』でも解説していますが、生半可な知識で進めると、後で取り消しになったり、税務署から否認されるリスクがあります。
相続・承継に強い税理士を選ぶ重要性
普段の試算表を作っている顧問税理士が、資産税(相続税)やM&A法務に詳しいとは限りません。
会社の未来と家族の絆を守るためには、「事業承継専門」の税理士をセカンドオピニオンとして入れることを強くお勧めします。
▼「争族」にならないための承継計画を立てる
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まとめ:公平ではなく「公平感」を目指す
事業承継において、兄弟間の「完全な平等」は不可能ですし、目指すべきでもありません。
目指すべきは、後継者に経営権を集中させつつ、他の兄弟にも心理的・経済的な納得感を与える「公平感」の醸成です。
社長が元気なうちにしか、この交通整理はできません。
「うちは大丈夫」という油断を捨て、今すぐ対策を始めてください。
