「御社の企業価値は、EBITDAの5倍で評価しました」
M&A仲介会社からそう言われて、「イービット…何だって?」と聞き返してしまった経験はありませんか?
EBITDA(イービットディーエー)は、M&Aの世界における共通言語であり、あなたの会社の「本当の稼ぐ力」を測るための最重要指標です。
これを知らずに交渉のテーブルに着くのは、ルールの分からないスポーツに参加するようなもの。
今回は、EBITDAの計算式と、なぜM&Aでは「営業利益」ではなく「EBITDA」が重視されるのか、そのカラクリを解説します。
EBITDAとは何か?(3秒でわかる計算式)
難しく考える必要はありません。中小企業のM&Aにおいて、EBITDAは以下の簡易式で算出されます。
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費
厳密な定義(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)は「金利・税金・償却前利益」ですが、実務上は「本業で稼いだ現金(キャッシュフロー)はいくらか?」を見るための指標だと理解してください。
なぜ「営業利益」じゃダメなのか?
決算書の「営業利益」を使わずに、わざわざ「減価償却費」を足し戻すのには、明確な理由があります。
理由1:設備投資の影響を排除するため
例えば、同じ営業利益1,000万円の会社が2つあるとします。
- A社:古い機械を使い続けている(減価償却費 0円)
- B社:最新設備を導入したばかり(減価償却費 2,000万円)
営業利益だけ見れば同じですが、キャッシュフロー(手元に残るお金)で見ると、B社は3,000万円稼いでいることになります。
「減価償却費」はお金が出ていかない費用なので、これを足し戻すことで、設備投資の方針に左右されない「純粋な稼ぐ力」を比較できるのです。
理由2:借金返済能力を見るため
買い手の多くは、銀行から借金をして買収資金を用意します(LBOなど)。
銀行が融資審査で見るのは「利益」よりも「返済原資(キャッシュフロー)」です。EBITDAは、借金を何年で返せるかを測る指標としても機能します。
売却額を上げる裏技:「修正EBITDA」
ここからが本題です。
中小企業のM&Aでは、決算書の数字をそのまま使うのではなく、実態に合わせて修正を加えた「修正EBITDA(実質EBITDA)」を使います。
以下の項目を営業利益に「足し戻す」ことで、EBITDAを合法的にカサ増しし、売却額を吊り上げることができます。
- オーナー社長の過大な役員報酬(次期社長の適正報酬との差額)
- 個人的な経費(社長の高級車、家族旅行費、飲み代など)
- 一過性の損失(退職金や災害損失など)
これらは「オーナー企業だから発生しているコスト」であり、買い手が大企業になれば不要になるコストです。
これらを利益に足し戻すことで、「実はこの会社、決算書以上に儲かっているんですよ」とアピールするのです。
あなたの会社の「EBITDA倍率」は?
一般的に、中小企業の企業価値(株式価値)は、以下の計算式(マルチプル法)で求められます。
- 企業価値 = EBITDA × 倍率(マルチプル) − 純有利子負債
この「倍率」は、業種や流行によって変動しますが、おおよそ3倍〜6倍が相場です。
詳しくは『会社売却の相場計算』の記事も参照してほしいのですが、自社のEBITDAが1,000万円なら、3,000万〜6,000万円程度の価値がつく可能性があるということです。
正確なEBITDAを知るには専門家が必要
「どこまでを経費として足し戻していいか」は、買い手との交渉材料になります。
あまりに強引な足し戻し(私的経費の全額否認など)は、デューデリジェンス(DD)で指摘され、信用を失う原因になります。
自社のEBITDAを正しく算出し、説得力のある根拠資料を作るためには、M&A実務に強い会計士や税理士のサポートが不可欠です。
▼「修正EBITDA」を算出して適正株価を知る
決算書の見栄えが悪くても、実質的なキャッシュフロー(修正EBITDA)が高ければ、会社は高く売れます。株価算定に強い税理士に、一度シミュレーションを依頼してみましょう。税理士紹介エージェント 無料相談
まとめ:EBITDAは「化粧」できる
EBITDAは、絶対的な数字ではありません。ある程度の「解釈」が許される数字です。
だからこそ、売却側は「いかにEBITDAを大きく見せるか」を考え、買い手側は「いかにEBITDAを削るか(リスクを織り込むか)」を考えます。
この攻防を制した者が、M&Aの勝者になります。
まずは自社の決算書を引っ張り出し、電卓を叩いて「簡易EBITDA」を計算することから始めてみてください。
