「サラリーマンを辞めて、300万円で会社を買って社長になる」
近年、こうした「個人M&A」や「スモールM&A」がブームですが、プロの視点から言わせていただくと、準備なき個人M&Aの9割は失敗します。
なぜなら、売りに出ている小規模案件の中には、決算書には現れない「爆弾(簿外債務)」や、買収直後に組織が崩壊する「時限装置」が埋め込まれているケースが多々あるからです。
今回は、個人がM&Aでババを引かないために絶対に見抜くべき2つのリスク、「簿外債務」と「従業員の離反」について、デューデリジェンス(買収監査)の技術を解説します。
個人M&Aは「株式投資」とは全く違う
上場企業の株を買うのと、非上場の中小企業を買うのは、全く別のゲームです。
上場企業は監査法人のチェックを受けていますが、スモールM&Aで売りに出ている企業の数字は、ハッキリ言って「化粧」されている可能性が高いです。
「利益が出ているように見えるが、実は社長が経費をポケットマネーで払っていた」「在庫の評価額が実態と乖離している」などは日常茶飯事です。これを見抜けないまま契約書にハンコを押した瞬間、あなたは「社長」ではなく「借金の連帯保証人」になります。
失敗パターン①:見えない借金「簿外債務」
簿外債務とは、貸借対照表(BS)に載っていない債務のことです。中小企業のM&Aにおいて、最も致命的なリスク要因です。
未払い残業代という時限爆弾
最も多いのが「未払い残業代」です。
オーナー社長時代の「うちは残業代なしだから」という口約束は、オーナーが変わった瞬間に通用しなくなります。従業員が労働基準監督署に駆け込めば、過去2年(現在は3年)分に遡って数百万円、数千万円の支払いを命じられるリスクがあります。
これを防ぐには、タイムカードと給与明細の突き合わせチェック(労務DD)が必須ですが、個人でそこまで徹底できる人は稀です。
社会保険の未加入
「パートだから」という理由で社会保険に入れていなかった従業員が、実は加入要件を満たしていた場合、最大2年分の保険料を遡及して徴収されます。これも買収後に発覚すれば、キャッシュフローを一瞬で枯渇させます。
失敗パターン②:買収直後の「従業員の離反」
M&Aで最もコントロールが難しい資産、それは「ヒト」です。
特にスモールM&Aでは、そのビジネスが「特定のキーマン(店長や技術者)」に依存しているケースがほとんどです。
「あの社長だから働いていた」という現実
あなたが会社を買った翌日、キーマンがこう言ってくる可能性があります。
「新しい社長の方針には従えません。辞めさせていただきます」
さらに最悪なのは、そのキーマンが顧客リストを持って独立し、競合店を近くにオープンさせるパターンです。あなたは「空っぽの会社」と「借金」だけを抱えることになります。
これを防ぐためには、詳しくは『会社売却時の従業員処遇』の記事でも解説していますが、キーマンとの事前面談や、契約書での「競業避止義務」の徹底が不可欠です。
個人のデューデリジェンス(DD)には限界がある
本来、こうしたリスクを見抜くための調査(デューデリジェンス)は、公認会計士や弁護士に依頼して行います。しかし、詳しくは『デューデリジェンスの費用相場』でも触れていますが、本格的なDDには数百万円のコストがかかります。
300万円〜500万円で会社を買おうとしている個人にとって、この調査費用は捻出できないでしょう。つまり、個人M&Aは「目隠しで地雷原を歩く」ようなものなのです。
まずは「経営者としての実力」と「資金」を作る
厳しいことを言いますが、決算書も読めず、DDのポイントも分からない状態で会社を買うのはギャンブルです。
もしあなたが将来的にM&Aでオーナーになりたいのであれば、まずは「自分個人の市場価値」を高め、買収資金と経営スキルを蓄えるのが、実は一番の近道です。
フリーコンサルタントとして腕を磨く
会社を買う前に、「フリーランスの経営コンサルタント」や「PMO」として、他社の経営課題を解決する経験を積んでみてはいかがでしょうか。
高単価な案件であれば、月額100万円〜200万円の報酬を得ながら、実地で経営を学べます。そこで作った資金(1,000万円〜)があれば、買収できる企業のランクも上がり、DDに専門家を使う余裕も生まれます。
▼まずは個人の「稼ぐ力」を最大化する
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まとめ:甘い話は落ちていない
ネット上のM&Aプラットフォームには「利回り50%!」「掘り出し物!」といった魅力的な案件が並んでいますが、良い案件は水面下でプロ同士が取引し、表に出てくる頃には「残り物」になっているのが現実です。
個人がM&Aで成功するには、プロ並みの選球眼を持つか、あるいは自分自身がプロフェッショナルになり、リスクをコントロールできる実力をつけるしかありません。
安易な「会社ごっこ」で人生を棒に振らないよう、戦略的なキャリアを描いてください。
